HITリケジョLABOが目指すこと
HITリケジョLABOを立ち上げたのは、自身も「リケジョ」として育ち、大学で多くの学生を指導しながらさまざまなフィールドで植物の研究をしている鮎川恵理先生。どんな風にリケジョを応援しようと考えているのか伺いました。
――なぜ、HITリケジョLABOをつくったのですか?
理系の科目や仕事に興味をもった小中学生・高校生の女の子や、理系に進むか文系に進むかまだ決めていない女の子を応援する組織をつくりたかったのです。
たとえば、理系の勉強の面白さ・仕事の幅の広さを伝えたり、進路の相談に乗ったり。「女の子」本人はもちろん、その親御さんや学校の先生もサポートしたいと思っています。
――保護者や学校の先生も対象なのですね。
親御さんは、ご自身が理系出身でなかったり、あるいは大学に進学していなければ、娘さんが理系に進みたいと言っても、「将来、研究職として遠くに就職してしまうのでは?」などと不安を感じたりするかもしれません。
娘さんについ、「文系にしたら?」とか「大学まで行かなくてもいいのでは?」と言ってしまうこともあるでしょう。それは、家庭だけでなく学校でも同じだと思います。
これまでは理系に進む女の子が実際に少なかったのだから、理系に進んだ女の子がその後どんな人生を送るのか想像がつかないのも無理はありません。まったく知らなければ、具体的なアドバイスで支えてあげることはもちろん、積極的に応援することもできませんよね。
でも実は、リケジョ出身の女性には研究界だけでなく、社会のさまざまな業界で、さまざまな職種で活躍している人がたくさんいます。
だから、女の子が理系の勉強や仕事に興味をもったときに、本人が望む進路や好きな分野をあきらめることなく選べるように、親や先生がそれをサポートできるように、私たち「リケジョOG」がお手伝いしよう、というのがHITリケジョLABOです。
――「リケジョ応援」のプログラムはいま全国にたくさんありますが、HITリケジョLABOの特徴は何ですか?
「リケジョ応援」プログラムの多くは、女の子たちに「あなたも科学者を目指そう!」と呼びかけるものです。たしかに女性科学者を増やすことは社会にとって大事な課題ですが、理系に進む女の子がみんな科学者を目標としているわけではないですし、非常に狭き門ですから、がんばればみんながなれるわけでもありません。
一方で、HITリケジョLABOの拠点となる八戸工業大学は工学系の大学ということもあり、学生が卒業後に研究者になるだけでなく、技術職として活躍できるように、あるいは専門職でなくても理系で学んだバックグラウンドを社会のさまざまな分野で活かせるように、という教育を得意としてきました。
ですから「リケジョ応援」→「科学者になろう!」という超エリートコースだけではなく、「リケジョは社会でもいろんな活躍の場があるよ!」ということを伝える場を作りたいと思っています。
また、東京や仙台などの大都市圏では大規模な科学イベントを開催すればそれだけ多くの女の子たちに来てもらえますが、八戸近辺は電車やバスなどの公共交通網が大都市ほど充実しているわけではないので、基本的に、親御さんに車で連れてきていただくしかありません。
しかし、まだ科学に興味をもつかどうかもわからない娘さんを科学イベントに連れていってみようと思われるご家庭は限られています。つまり、大規模イベントを企画して多くの女の子に届くようにしたつもりが、八戸を含む北東北ではむしろ対象を絞ってしまうんです。
ならば、北東北に合った活動をしたほうがいい。この地域の女の子本人や周りの大人にリケジョにまつわる思い込みや不安があるとしたら、その正体は何かをきちんとリサーチしたうえで、それを解消できるような、そして女の子たちの選択を後押しできるようなきめ細かい活動をしていきたいと思っています。
――具体的にはどんなことをするのですか?
まずはこの地域特有の「リケジョ」にまつわる価値観や困りごとを知るための調査を行います。それと並行して、個別の進路相談や、私たちが小中学校や高校に伺う出張講演を行っています。
個別の進路相談は必ずしも女の子本人だけでなく、保護者の方や学校の先生からもお受けしています。むしろ、女の子たちの周りの大人(つまり親や先生)に、リケジョを応援する気持ちをもっていただけるような情報提供をすることが、遠回りなようで実は効果の高い道ではないかと思っています。
理系に進むと、とても面白い勉強ができるだけでなく、将来の選択肢が広がる可能性もおおいにあります。女の子にはぜひ積極的に選んでほしいですし、周りの大人にも応援してもらえたらと思います。
鮎川 恵理 (Eri AYUKAWA)
HITリケジョLABO会長/八戸工業大学工学部生命環境科学科教授
専門は植物生態学。東京農工大学農学部の在籍中から、環境と植物との関わりに興味を持ち、総合研究大学院大学数物科学研究科極域科学専攻に進学。2000年日本南極地域観測隊で南極のコケ植物の現地調査。2004年より八戸工業大学で多くの理系女子を指導、就職指導も行ってきた。女子大学生、女子高校生の母。
インタビュー記事:青森県女性ロールモデル 鮎川恵理さん
理系の学問や進路に関する講演・個別相談のご要望は以下で受け付けております。生態学やデータサイエンスはもちろん、それ以外の分野でも専門の研究者がいます。対象、内容、日程、開催方法など、気軽にご相談ください。
八戸工業大学「HITリケジョLABO」
記事公開日 2022/2/15
本文取材・構成 江口絵理