HITリケジョLABOメンバー・インタビュー(2

鮎川 恵理

(八戸工業大学工学部工学科 生命環境科学コース 教授)

大学院生のときに南極観測隊に参加してコケ植物を調査し、八戸では東日本大震災前後で沿岸の植物の種類がどう変化したかを調査。バリバリのリケジョとして研究者になったのかと思いきや、数学も物理も不得意だったという鮎川恵理先生に、どんな道をたどってきたのかを聞きました。

――自然や植物がもともと好きだったのですか? 


小さいころから、家の近くにあった雑木林に来る鳥を見たり、郊外の山に登ったりすることが楽しかったんです。といって鳥や植物の名前に詳しくなるわけでもなく、図鑑で調べたりしながら楽しんでいただけですが。

 

マングローブの植林をしている人の話を聞いたことから、森林を守ることに興味が出てきたのが高校生のときでした。そこで、思い立って1泊2日の間伐体験プログラムに参加してみたところ、一度でも人の手が入った森を守るには、植えるだけでなく、適切に伐って手入れをし続ける必要があるということを初めて知りました。

 

健全な森を残すために世代をまたいで手入れし続ける、という時間的なスケールの大きさにも心惹かれ、将来は林業や森林に関わる仕事につきたいと考えるようになりました。



――理系に進もうと思ったのはいつでしたか? 


高校に入って最初の定期試験で、物理で100点をとったんです。そのとき、自分は物理が得意なんだと思ってしまったんですよね。――でもその後はさほどいい成績がとれず、どうやら得意科目ではないことが後になってわかってきました。数学にいたっては、100点満点で7点だったこともあります(笑)。


――それでも文系に変えようとは思わなかったんですね。  


物理も数学も「嫌い」とか「やりたくない」とは思うことはなかったんです。たしかに受験では不利ですが、入試は全科目の総合得点で決まるのだから、不得意科目があっても極端に低い点数をとらなければ大丈夫だろうと思っていました。 


――一年浪人して東京農工大学に入られたとのこと、念願だった森林の勉強ができそうな大学ですね。


ただ、2年次にコースを決める時には、森林だけではなく自然環境全体を対象にする研究に興味が出てきていたので、生物圏環境科学コースに進みました。

 

勉強やアルバイトのかたわら、ワンダーフォーゲル部でさかんに山登りをしているうちに、雪山で目にする真っ白な世界に強く惹かれている自分に気づきました。こんな見渡す限り白銀の世界を舞台にできる仕事って何だろう? と考えていたら、あるとき「南極観測隊」の文字が目に入ったんです。それだ! と思いました。 

――そうは言っても、南極観測隊に入るのは簡単なことではないですよね。


アルバイト先の林業試験場の人に話してみたところ、「農工大ならきっと南極で研究をしている人を知っている先生がいるから、相談してみるといい」と助言をもらいました。そこで3年生になって、ある研究室を訪問したときに先生に「何がやりたいの?」と聞かれて、思い切って「南極に行きたいんです」と言ってみました。

 

そうしたら、先生方の人脈を通じて、南極や北極で調査・研究をしている極地研究所の研究者さんにご紹介くださったんです。幸いにも極地研究所の研究室で受け入れていただけて、私は極地のコケを研究することになりました。

 

大学院博士課程の2年目に、晴れて観測隊の一員として南極に行くことができました。学生だったのでオブザーバーという立場ではありましたが、たしかに夢はかなったのです。南極調査の話は長くなってしまうので、また別の機会に(笑)。


――理系に進むかどうか迷っている中高生にメッセージはありますか?


理系というと「物理と数学が得意でなくては」と思う人も多いかもしれません。でも、文系の人にだって文系科目の中に得意不得意があるように、理系の人にも不得意教科はあって当たり前。1、2科目不得意だからといって、理系に進むことをあきらめる必要はないと思います。

 

もし大学で生物のことを学ぶなら、数学が得意でなくてもなんとかなります。研究者にだってなれます。私のように。

 

数学が不得意だった私ですが、今も、高校生の娘が持ち帰ってきた数学の問題を見るとわくわくして解いてみたくなります。問いを立て、持っている知識を組み合わせて「解けた!」とわかった瞬間のうれしさは格別のもの。研究の楽しさとも共通しています。ぜひ、楽しい理系の世界へ。 

鮎川 恵理 (Eri AYUKAWA) 

HITリケジョLABO会長/八戸工業大学工学部工学科 生命環境科学コース 教授

専門は植物生態学。東京農工大学農学部の在籍中から、環境と植物との関わりに興味を持ち、総合研究大学院大学数物科学研究科極域科学専攻に進学。2000年日本南極地域観測隊で南極のコケ植物の現地調査。2004年より八戸工業大学で多くの理系女子を指導、就職指導も行ってきた。女子大学生と女子高生の母。 


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八戸工業大学「HITリケジョLABO」

rikejo@hi-tech.ac.jp 


記事公開日 2023/3/8

取材・構成 江口絵理