メンバーインタビュー(5


桶本 まどか

HITリケジョLABOメンバー・インタビュー Vol.5

桶本 まどか八戸工業大学工学部工学科システム情報工学コース 助教


高校選びの基準はなんと、「自宅から一番近いところ」。進路にまるで無頓着だった桶本さんですが、大学院時代には優秀な若手研究者として国から支援を受け、博士号取得後すぐに大学の理系研究者に。桶本さんの原動力は何だったのでしょう?

――金沢市立工業高校(石川県金沢市)のご出身なのですね。工学系のことに興味があったのですか? 


いえ、家から一番近い公立高校がたまたま工業高校だっただけなんです。朝が弱いもので、一分一秒でも長く寝ていたくて(笑)。進学先の偏差値や雰囲気などは気にせず、「家からの近さ」という基準だけで選びました。

――学校生活や勉強に興味がなかったのですか? 


勉強が嫌いだったわけではなかったのですが、授業を面白いと思えなかったんです。ただ、中学で吹奏楽部に入ってサックスを始め、高校でも吹奏楽部に入部して、学校生活のエネルギーのほとんどを部活に注いでいました。大学は京都の龍谷大学を選びました。吹奏楽部の活動が盛んだったためです


――では、はっきりと「理系か文系か」の選択をしたことはなかったのですね。 


そうですね。大学紹介の情報メディア学科のところに「音響エンジニア」という言葉があり、これが面白そうだなと思って学科を決めたので、あえて言えばその時でしょうか。高校でプログラミングに触れていたので、それも生かせそうだなと。

 

大学3年になったとき、音楽と情報学を組み合わせた研究をされている三浦雅展先生のお話を聞いて、「これだ! 私がやりたかったのは」と衝撃を受けました。


――“音楽と情報学を組み合わせた研究”とは?


一言でいうと、音楽を解析するプログラムを作ったり、音楽に含まれている法則をプログラミングで表現したりする研究です。

 

吹奏楽の練習では、「もっと音を太くして」と言うことがあります。その楽器を聴き慣れている人たちはある音を聞いたときに、それが“太い”音か、そうでないかの評価が一致します。でもそのとき、人はいったい何を基準に評価しているのだろう。音の高さなら数値で確認することができます。でも「太さ」は? 

 

音楽を聴いたときの「印象」を人が評価するときの基準を明らかにする研究をやりたい、と私は思ったんです。

 

研究室はとても楽しく、毎日入り浸って先生や先輩方に研究の基本や知識を教えてもらいました。ところが半年後、先生が八戸工業大学に移籍してしまったので、卒業後は八戸工業大学の大学院に進みました。

ところが、私がここに来た翌年には先生が東京の国立音楽大学に移籍してしまって。そこで、修士課程を八戸工業大学で修了した後、博士課程は国立音大の大学院に入りました。


――金沢から京都の大学へ、卒業すると八戸の大学院へ、そして東京の音大へとめまぐるしい移動でしたね。それほどまでに、指導を仰いでいた三浦先生の研究が「ほかにはない」ものだったのですね。

 

そうですね。音楽を分析する研究となると、音楽に対する価値観が一致していないと指導を受けるのも共同研究するのもなかなか難しいと思います。私はいい先生に出会えて本当に幸運でした。

 

――どんな研究をしたのですか? 


楽器で演奏された音の良しあしや特徴を人が評価するのと同じように評価することができるAIを作るにはどうしたらいいか、という研究をしていました。音の正体は空気の振動で、その振動は「波形」で表すことができます。AIに人間と同じように演奏を評価してもらうには、人がどんな風に音、すなわち波形を解釈しているのかをあらかじめAIに教えておく必要があります。そこで、AIが音の波形から音の色々な特徴(音の大きさ、音の明るさなど)を自動で読み取るプログラムの作成を行ないました。

 

今後は、上の研究にくわえて、人はなぜ音や音楽にこころを揺さぶられるのか、その理由を情報学や心理学など様々な分野の技術を用いて研究を進めていこうと思っています。


――理系を選択するかどうか迷っている女子中高生にアドバイスはありますか?


私は「理系を選んで」歩んできたわけではなく、「やりたいことをやっていたらここにたどりついた」ので、アドバイスする資格などないような気もしますが……(笑)

 

ただ、理系文系を問わずどんな人でも、キャリアを築いていく上で必要になる力は「論理的思考」ではないでしょうか。文系の学問でも論理的思考の力は問われますが、目で見てわかる形で論理的思考が「できているか/できていないか」がわかる場面はそう多くないかもしれません。

 

その点、理系の教科や学問では、論理的思考ができていないと、明らかな形で「間違い」という結果が出ます。たとえばプログラミングなら、論理的に考えられていないとプログラムが動かない。論理的思考を鍛えるには理系の分野は向いていると思います。迷っているなら、理系に進む良さはそういうところにもあるよ、とお伝えしたいです。もちろん、やりたいことがある人はぜひその方向へ。


桶本 まどか (Madoka OKEMOTO)


八戸工業大学工学部工学科システム情報工学コース 助教

 

専門分野は音楽知覚認知、音楽情報処理、音楽音響、音響信号処理。八戸工業大学大学院で修士号(工学)、国立音楽大学大学院で博士号(音楽学)を取得し、2023年に八戸工業大学工学部に着任。「音楽を聴いて人が感動するのはなぜか」「人が音楽を聴いて受けた感動をコンピュータが理解できるのか」という問いに関係する様々なテーマで研究を行なっている。